減数分裂進行を細胞骨格制御の観点から読み解く


卵成熟は, 卵母細胞の減数分裂の再開から紡錘体形成に至る過程であり, 動物が次世代を生み出すために必須の過程である. この卵成熟過程の進行に伴い, 染色体は細胞骨格成分と相互作用しながら最終的に紡錘体の形成を完了するが, その分子機構の理解にはまだ不明な点が数多く残されている. アフリカツメガエル卵母細胞は直径1.2 mmに及ぶ巨大な細胞であり, 紡錘体形成に至る過程において独特な構造形成とその遷移過程が, 植物極側から動物極側に向かって一方向に秩序立って進行するため, 異なる細胞骨格成分間の相互作用という観点から本質的に重要な実験系を提供する. 本研究室では、アクチン・微小管・中間径フィラメントという3つの異なる細胞骨格要素の秩序だった相互作用という観点から, Xenopus卵母細胞の卵成熟における核膜崩壊から紡錘体形成に至る過程の分子機構を解明することを目的として研究を展開している.

主な研究テーマ

  1. 卵成熟過程における細胞骨格間クロストーク
  2. アクチン調節蛋白質コフィリンを核とする細胞骨格制御
  3. 卵割時の収縮溝形成におけるアクチンダイナミズム
  4. 核内アクチン動態とヘテロクロマチン構築の関連

卵成熟過程における細胞骨格間クロストーク

近年, 紡錘体の形成や卵表層への移動にアクチン繊維が関与することが種々の動物卵で見出され, 紡錘体とアクチン繊維との関係に注目が集まっている. また, 我々は独自に, 核膜を裏打ちしている中間径繊維のカテゴリーに含まれるラミン繊維の分散にはアクチン繊維の再編成が重要であることを見出し報告した. このように細胞骨格の相互作用は複雑に絡み合い, その総体として核膜の分散や紡錘体形成が進行すると考えられる. つまり, 問うべき主題は, 卵成熟の進行に伴い, 3つの異なる細胞骨格である微小管・アクチン繊維・中間径繊維はどのような分子機構で相互作用して紡錘体形成に至るのか, ということである.

アクチン調節蛋白質コフィリンを核とする細胞骨格制御

アクチン繊維を切断・脱重合するアクチン調節蛋白質コフィリンのリン酸化制御機構の存在が、卵成熟過程のアクチン繊維形成の動的な制御に必須であることを我々は報告してきた。コフィリンの作用を中心とするアクチン繊維の再編成は細胞機能にとって必須であり、そのリン酸化制御機構の詳細や、コフィリンと共同してアクチン繊維形成のダイナミクスを高める因子であるAip1やCAP1などの機能について、液-液相分離の観点も含め多角的に解析を進めている。

卵割時の収縮溝形成におけるアクチンダイナミズム

アフリカツメガエル卵はその大きさ故、卵割時に動物極側から形成される収縮溝が表層を伸長して植物極側まで回り込み収縮環を形成する過程を直接観察できる。こうして形成された収縮環による細胞質分裂運動はアクチンとミオシンの相互作用によって引き起こされる代表的な細胞運動のひとつであるが、その過程にはさまざまなアクチン結合タンパク質が関与していると考えられている。

従来、タンパク質の機能解析には遺伝子ノックアウトやRNA干渉などの手法が汎用されてきたが、卵や初期胚では発生は主に母性由来のタンパク質やmRNAにより駆動されているため有効なタンパク質機能解析ができなかった。我々はTrim-Awayという新しい手法を使って、タンパク質ノックダウンによる卵割時のアクチン結合タンパク質の機能解析を進めている。

核内アクチン動態とヘテロクロマチン構築の関連

近年、核内アクチン繊維形成の動態がゲノムの転写や複製、遺伝子発現の初期化に関与しているという報告がなされ、その機能に注目が集まっている。そして2018年には、DNAの2本鎖切断の修復にArp2/3 complexを主体とするde novoのアクチン繊維形成が必須であるという予期せぬ結果が示された。我々は独自に、核内アクチン繊維形成の動態制御がヘテロクロマチン構造の変化と相関する現象を見出し、現在その分子機構の解析を行っている。